重い病気や障害をもつ子どもと家族や誰もが暮らしやすい社会づくりを目指し始まった『みえてくPROJECT』。
現在、同プロジェクトに賛同した美容室とともに、誰もが髪型を楽しめる店づくりに取り組んでいます。
今回は、主催施設のチャイルド・ケモ・ハウスを取材して、プロジェクト内容や参加方法、参加した美容師の声などを聞きました。
minimo connect について
1人1人の多様な「なりたい」を応援するミニモが、美容を取り巻く社会課題を知り、考え、行動するプロジェクト。
誰もが美容を楽しめる社会を目指し、幅広い視点を持って、一歩ずつ、力強く取り組んでまいります。
小児がんや難病などの治療中の子どもと家族が安らげる場所を目指して
―最初に、チャイルド・ケモ・ハウスについて教えてください。
チャイルド・ケモ・ハウスは、公益財団法人チャイルド・ケモ・サポート基金が運営する兵庫県神戸市のポートアイランドにある施設で、小児がんや難病などの治療中の子どもと、その家族がゆっくり楽しく過ごせる時間と場所を提供しています。
ポートアイランドには高度医療の病院が複数あります。特に小児の治療では保護者が付きっきりになることが多く、保護者は病室で24時間付き添い、夜は簡易ベッドで寝る生活で、心身ともに疲れてしまうことも多いです。
治療が一年間にわたる病気もあり、保護者はその間、家と病院の二拠点生活になります。
また、家族といえども小さな子どもは病室に入れませんので、患者に兄弟や姉妹がいる場合、保護者はそれぞれの面倒を別々に見なければいけなくなります。
そんな二拠点生活をしながら付き添いを続ける家族と患者さまが、少しの時間だけでも家族みんなで過ごしたり、ちょっと休憩したり、ゆっくりご飯を食べたり、スタッフと喋ったり、少しでもほっとできる時間になればいいなという思いで施設を運営しています。
―チャイルド・ケモ・ハウスの主な活動を教えてください。
私たちの活動は、チャイルド・ケモ・ハウスの運営と滞在者さんの支援の他に、相談支援事業や啓発活動があります。
- 相談支援事業… 神戸市・西宮市・尼崎市から委託を受けて、小児慢性特定疾病をもつ子どもと家族の相談支援事業をしています。
重い病気をもつ子どもとその家族が保健師、経験者などにどんなことでも相談ができるよう、電話、メール、オンラインで相談を受けつけています。
みんなと楽しむ、同じような経験をしている仲間と出会えるイベントも対面やオンラインで実施しています。 - 啓発活動… 重い病気をもつ子どもや家族にとって、あたたかく暮らしやすい社会であってほしい。そのお手伝いをしたい人たち向けに、「あのねサポーター養成講座」や小学校や中学校で実施する「がん教育」など各種講演会を実施しています。
病気や障害をもつ子どもと家族が感じる「あっちの世界とこっちの世界」
―患者も家族も心身ともに負荷がかかる日々を強いられる中、チャイルド・ケモ・ハウスに来ることでひとときの安らぎを感じられるのですね。
一連のご活動の一環として、美容室が活動に参加する『みえてくPROJECT』を始められたということでしょうか。
はい。 『みえてくPROJECT』は、病気や障害をもつ子どもと家族の想いを届け、誰もが暮らしやすい社会にすることを目的にスタートしました。
これまで私たちは、病院で治療している間のサポートに注力してきましたが、実は退院して日常社会に戻ってからも、引き続き大変なんですよね。日常生活を少しでも安心して過ごせる環境をつくりたい、そんな思いから始まりました。
「病気がわかったとき」「今日からしばらく学校に行けないよ」と言われた時。
そんな時に今までいた世界がまるで「あっちの世界」になってしまったような気持ちになることがあると聞きます。
店や施設に入るときに車椅子用のスロープがあるかな?呼吸器を充電するコンセントはあるかな?
いろいろな心配があって、気軽に外出することが難しい時があります。
設備だけではありません。「どんな目で見られているんだろう」「その場所に行っても迷惑じゃないかな」といった心の不安もあります。
「やさしいきもち」「よりそうきもち」を見える化
ですが、「大丈夫。わたしのお店は歓迎しているよ。」と優しい想いを持ってくださっているお店はあります。
でも、ぱっと見ただけでは、それが分かりません。
そこで、歓迎してくださる店が分かるステッカーを作り、店頭に貼ってもらうことにしました。
同時に、賛同店を増やしていき、将来は病気や障害をもつ子どもや家族の世界と「あっちの世界」の境目がなくなり、誰もが同じように暮らせる社会にしたいと考えています。
現状、車椅子や障害をもつ子どもが店に行く場合、保護者は店に電話したりインターネットを見たりして、車椅子でも入れる広さの店か、コンセントが借りられるか、などを確認する手間がかかります。
これを繰り返すのは大変ですから、外出が億劫になってしまう人もいます。
その点、歓迎ステッカーがあれば、そのステッカーがある店を探して行けばいいので、心理的にも楽になります。
現在は、3軒の美容室にご協力いただき、協働で環境づくりをしています。
店舗の大きさや形を活かした参加が可能
―実際に、どのような病状の子どもが来店しますか?
現状では、背もたれ付きの車椅子を利用している子どもや呼吸器を付けていたり、発達障害の子どもなどがいます。
―となると、店が広くないと協力は難しいですか?
そんなことはないです。たしかに車椅子で入れる店となると、広い美容室に限定されると思います。通路の幅に加え、車輪が右左折できる余裕が必要になります。
一方で、例えば発達障害の子どもは広い空間より静かな個室のほうが適していることもあります。
子どもによって適した環境は異なりますので、幅広い環境の店が揃っていることがありがたいです。
―参加した美容室は、どのように活動を始めるのですか?
まず、重い病気や障害をもつ子どもと家族の現状や思いを知っていただくため、簡単な講座を受講いただきます(有料)。
合わせて、お店の形や広さが分かる写真の撮影と設備確認、計測(呼吸器に使うコンセントの位置確認や入口や通路の計測)もお願いしています。
これらの準備が整ったら、店に『みえてくPROJECT』のステッカーを貼っていただき、活動がスタートします。
参加した美容師の反応に施設スタッフはびっくり!
―すでに活動を始めた美容室で働くスタッフの反応はいかがですか?
それが、想像とまるで違う反応で、ものすごくびっくりしました。
想定では、おそらく多くのスタッフさまが「病気の子どもを担当するのは怖い」「なにかあったらどうしよう」とおっしゃるのではないかなと思っていました。
ですが講座をしてみたら、複数のスタッフさまから「他のお客さまと同じように、おもてなしの心を持って接客すればいいんですね!」と言っていただき、とても感激しました。
そうですよね。美容師さんにとって、どのお客さまも同じが当たり前なんですよね。
美容師さんにご協力いただいて、本当によかったと思いました。
―来店する子どもは、状態が安定していて外出できる状態なんですよね。
そうです。体調が悪いときは無理に外出しませんし、医療に関する責任を美容室にゆだねることはありません。
何事もなく終わることを想定していますが、だからといって美容師さんに「絶対に何事も起こさず終わらせてください」なんて言うつもりはありません。保護者も同席します。
他のお客様と同じように一人一人の子どもと接してくださるとありがたいです。
―実際に利用した人の感想を教えてください。
呼吸器などの機械を装着していたり、大型の車椅子を使っていたりする子どもと家族の中には、美容室を行くことをあきらめている方もいらっしゃいました。
そのため、そのぶんよろこびが大きい様子でした。
子どもがケープを付けている姿をみて、「ケープつけてる!」と感動される姿をみて、見ているこちらも涙してしまいました。
一度あきらめていたことを取り戻せたという感動は、私たちスタッフにとっても嬉しく、とても印象的な瞬間でした。
また、もうすぐ社会人になる年齢の子どもにとっては、自立のステップにもなります。
いずれ彼らが大人になって、自分で『みえてくPROJECT』のステッカーを見つけて、「ここなら入れる!」と思ってくださることが安心につながればと思っています。
―いずれは美容室以外の業態にも展開する予定ですか?
そうですね。カフェなど安心して休憩できる場所が増えるといいですね。
ただ、丁寧な対応が必要な取り組みですので、一気に手を広げず、徐々に賛同店を増やしていきたいと思います。
この記事は掲載者向けメディア「#集客ノート」より一部を転載しています。